問題解決する栄養療法⾷品

リーダーインタビュー

ここで学べること
栄養療法の世界とは、栄養療法ができることは?
今、注目の「栄養療法」について、この世界を牽引する第一人者に伺いました。

「食べる」を通して、地域を健やかに
嚥下食も提供する病院提携のカフェ
「カムカムスワロー」


歯科医師 近石壮登さん<第2回配信>


「食」をテーマに総合病院に歯科・口腔外科を設立、嚥下食を楽しめるカフェを作った歯科医師、近石壮登さんに話を聞きました。



p_interview_chikaishi.jpg医療法人社団登豊会近石病院理事、歯科・口腔外科 歯科医師、「カムカムスワロー」代表。日本歯科大学卒業。卒業後は、藤田医科大学にて口腔外科、摂食・嚥下リハビリテーションの診療に従事した後、2021年4月から実家である近石病院の歯科・口腔外科へ。病院内および施設や患者宅での在宅診療で活躍するほか、「カムカムスワロー」を中心に地域でも積極的に活動中。


歯科医師・森田達さん
医療法人社団登豊会 近石病院 歯科・口腔外科 歯科医師


言語聴覚士 蛭牟田(ひるむた) 誠さん
医療法人社団登豊会近石病院 歯科・口腔外科 主任 言語聴覚士、「カムカムスワロー」マネージャー




 過去の連載 



Q.2022年にオープンした「カムカムスワロー」について教えてください。


管理栄養士が常駐。
嚥下食の提供が可能なカフェ兼
地域密着型のコミュニティスペース。


近石:2022年12月、「カムカムスワロー」はオープンしました。岐阜県岐阜市にある総合病院、医療法人社団登豊会 近石病院(以下、近石病院)の歯科・口腔外科の歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士などの医療専門職のメンバーが中心となって立ち上げた、地域密着型のコミュニティスペースです。


p_article_2-1.jpgカムカムスワロー外観。


このカフェのコンセプトは「『食べる』を通して、地域を健やかに。」で、歯科と同様「食べる」がテーマになっています。日本栄養士会から認定を受けた認定栄養ケア・ステーションであり、同時にカフェスペースやシェアキッチン、イベントホールなども併設したコミュニティスペースでもあります。施設には管理栄養士が常駐し、食・栄養に関するさまざまなお悩みごとを気軽に相談できます。


カムカムスワローでできることは4つあります。1つ目として、カフェで嚥下食の提供が可能なことです。小さなお子さまから嚥下障害でお悩みの高齢者まで、誰もが「食べる」ことを楽しめます。2つ目は、管理栄養士や医療スタッフへの食・栄養に関する相談、3つ目は歯科医師をはじめ医療職によるセミナー・イベントの開催、4つ目は、シェアキッチンの企画運営です。


「カムカムスワロー」という名前は、「噛む」と、来ていただきたいという意味の「COME」、それから「嚥下」という漢字は口に燕と書くように、英語の「スワロー」には、飲み込むという意味もあり、カムカムスワローとしました。


蛭牟田:岐阜県はモーニングが盛んな土地柄です。モーニングとは、朝の時間帯、ドリンク1杯の値段で、トーストやサラダなどの"おまけ"がついてくるものです。そのため、カムカムスワローでは、モーニングにいちばん力を入れており、午前中に多くのお客さまがいらっしゃいます。


p_article_2-2.jpgカムカムスワローの一番人気のモーニング。ドリンク代+500円で食べられる、通常の軽食よりリッチなメニュー。


Q.カムカムスワローにはどんな方が来ますか?


広く一般の人も利用。
嚥下治療の患者さんにも
徐々に浸透。


近石:高齢の方を始め、家族連れ、お子さん連れの方などとても幅広く来ていただいています。私たちも元々、対象を嚥下でお困りの方に絞るのではなく、一般の方々に来ていただけるようにしたいと思っていました。今は、私たちの情報発信の効果もあり、車椅子のお母さまと一緒に来られる方や、食形態を調整している方など、嚥下でお困りの方のご来店もだんだん多くなってきました。


蛭牟田:当院の歯科・口腔外科では、毎週水曜日と金曜日に嚥下外来があり、飲み込みの検査をした方に栄養相談ができておいしく食べることもできる場として、カムカムスワローをご紹介しています。また、入院患者さんにも嚥下の治療を行い、できる限り自分の力で食べていただけるようにしています。飲み込みの機能低下があると、食べる量が減ってしまい、摂取する栄養量が下がることがあります。飲み込みや栄養の大切さをお知らせするためにも、必要に応じて検査後や退院後にカムカムスワローで栄養指導をさせていただいています。


Q.カムカムスワローはなぜカフェの形になったのでしょうか?


漁師町で見た多世代の交流が原点。
地域をよくしたいと考える人たちが
集まるスペースに。


近石:カフェを中心とした今のスタイルになった背景には、学生時代に、五島列島の宇久島で行ったボランティアの経験があります。そこは漁師町で、大きな食卓を囲んでいろいろな世代の人が交わっていました。みんなで「ああでもない、こうでもない」と議論していた姿がとても印象的で、あのような地域のつながりを岐阜でもできないかと考えました。


カフェをイメージするとともに、行くだけで健康になるような仕掛け、プログラムもやっていきたい。実際、食は本当にいろいろな切り口があります。嚥下だけではなく、地産地消などもありますし、みんながキッチンに立って、何か楽しく交流できる設備にしたい。食×交流なら、モーニングを提供できるカフェに、シェアキッチンやイベントホールもあるといい。そのような思いから、今の形になりました。


やってみて気づいたのは、我々だけでなく、地域をよくしたいと思って取組をされている方がたくさんいるということです。このような場を設けたことで、高齢者に関わる取組をされている方、障害のある方に関する取組をされている方など、今まで点で活動していた方々が面でつながったと思います。近所の障害者福祉施設を運営している方が中心となり、カムカムスワローのある岐阜市忠節エリアの皆さんがここに集まって、食事をしながら今後地域をどうよくしていくかといった話をされています。そうした懇親の場にもなっています。


p_article_2-3.jpg近石先生。


お客さまもいろいろと感想を話してくださいますが、いちばん嬉しかったのは、施設に入られている90歳のお母さんとその娘さんのお話です。以前は、お母さんが普通の食事を召し上がれないので、外食をあきらめていたそうです。娘さんが私に、「こういう場所があることで、対面で一緒に食事ができ、それがとても嬉しい」と言ってくれました。ほかにも、医療ケア児のお子さんがおられる方が、「ここでお母さんたちとのコミュニティができ、つながれたことが嬉しい」とおっしゃってくれたこともあります。


実際にやってみて、地域のいろいろな取組や皆さんの交流のハブになれればという思いを強くしています。


Q.どんなイベントを開催していますか?


食をメインに、
健康になるための各種イベントを実施。
日本料理の大将による嚥下食実演会も。


蛭牟田:イベントはさまざまなものがあります。一つは介護予防教室です。病院が運営しているカフェの介護予防教室ということで、歯科医師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、そして私のような言語聴覚士といった多職種で取組んでいることが特徴です。単発の介護予防教室では、一般の高齢者に加え、嚥下障害がある方を介護しているご家族なども参加されています。また半年間継続的に実施するプログラムもあります。こちらに関しては、参加者同士のコミュニティができ、参加者の生活の質の向上にも繋がっています。


近石:ただ、やはり基本のテーマは食です。特に私たちは、嚥下障害のある方たちが外食できる機会をつくることに力を入れています。その一環で、2023年10月2日には嚥下食実演会のイベントを行いました。


イベントは、滋賀県東近江市にある「日本料理 魚繁大王殿」で、嚥下食の会席料理や弁当を提供している岩崎勝大将をお迎えして行いました。岩崎大将がなぜ嚥下食をつくり始めたのか、ご自身の体験をお話しされたあとに、実際に調理をして、参加者の方に試食してもらうという内容でした。参加者は、一般高齢者の方のほか、施設の職員、医療児をケアしているお母さんたち、それから近隣のホテルの料理長もいらっしゃいました。嚥下食はどのようなものか、いろいろな方に幅広く知っていただけたと思います。


p_article_2-4.jpg岩崎大将による嚥下食の実演。


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当日はにぎり寿司のゼリー食を提供。


試食後には交流会も行いました。イベントでは、見た目もおいしい嚥下食の実物を皆さんにお見せでき、参加された方々が嚥下食の情報を得るとともに、私たち医療者側にとっても貴重な機会となりました。このようなイベントを行うことで、今後、嚥下食というものがより広く知られ、どこでも食することができるよう、この業界の発展につなげていければと思っています。


p_article_2-6.jpgイベント後に参加者と話す近石先生(右)、森田先生(左)。


※内容は2023年9月取材当時のものです。


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【第三回】通常カフェメニューも嚥下食で提供 見た目もおいしさも重視した嚥下食でカフェの全国展開を目指す



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