読む介護飯(かいごはん)ラジオ
専門家が答える読む介護飯(かいごはん)ラジオ 第18回
歯医者は『食べる』のキーパーソン!介護現場における歯医者の役割
※本記事はPodcast番組「介護飯ラジオ」第18回のWEBページ版です。
【介護飯ラジオとは】「専門家が答える介護飯(かいごはん)ラジオ」は、「高齢者の痩せ対策委員会」がお届けするPodcast番組です。食支援の専門家をゲストにお招きし、リスナーから寄せられた「食事」や「痩せ」に関するお悩みに回答、明日から使える実践的な解決策やヒントをお伝えします。「Podcastでの配信内容を文字で読みたい」「気になったエピソードを振り返りたい」という方のために、こちらのWEBページ版「読む介護飯ラジオ」をご用意しました。
■パーソナリティ紹介
岡崎佳子(ナースマガジン編集長)
父はレントゲンの設計士、母は看護師という両親のもとで育つも医療・看護の道には進まず。転職を繰り返すも、常に扱うテーマが栄養・食事という不思議な巡り合わせ。両親を在宅で看取るという体験を経てたどり着いたのは、看護情報誌「ナースマガジン」編集の仕事。取り扱う多様なテーマに四苦八苦しながら、気がつけば前期高齢者。滑舌が悪くならぬよう、口形体操が日々の日課。
■ゲスト紹介
長谷剛志(公立能登総合病院 歯科口腔外科 部長)
口腔外科の専門医として診療を行いながら、能登地方に暮らす高齢者の食支援や、それに伴う医師と歯科医師の連携強化に取り組む。2011年には「食力の会」を立ち上げ、施設ごとに異なっていた食形態を整理して「食形態マップ」を作成。高齢化が進む今だからこそ"口から食べること"を追求し、日々の実践に反映させている。
歯科医師から見た「食べる」機能とは?
岡崎
今回は歯科医師から見た高齢者の食べる機能、そして起こりやすいトラブルなどについてお話しいただきます。本日のお便りは訪問看護師の方からです。
脳梗塞後の後遺症がある60代男性患者さんのことについてのご相談です。
認知機能の低下や嚥下障害、麻痺などがあります。痩せて手足も細く、立ち上がったときに体を支える介助の負担が大きくなっています。お口の状態も悪く、治療をおすすめしていますが、拒否されています。食事は一口大のご飯、飲み物にはとろみをつけていますが、飲み込むときにむせることがあって、食事時間が30分ほどかかっています。疲れないで効率のよい食事の方法を教えていただきたいです。

岡崎
高齢になると、口の機能や働きにだんだん問題が出てくると思いますが、歯医者さんとして、長谷先生は口の中のどういったところを見ているのでしょうか?
長谷
加齢による変化ですね。わかりやすく言うと口の老化現象です。歯に関して言うと虫歯や歯周病で、どうしても本数が少なくなりがちです。歯が少なくなると、硬いものが噛めなかったり、繊維質のものが食べにくくなったりして、その結果、低栄養や誤嚥・窒息の事故につながることもあります。
あとは歯だけの問題ではなく、口の中の天井部分にあたる「口蓋」という部分や、べろの付け根下の「口腔底」、さらに頬の粘膜が、菲薄化といってだんだん薄くなります。特に女性のほうが男性よりも加齢の影響を受けて、口の粘膜は薄くなりやすいと言われています。年をとって口腔粘膜が薄くなると、「小唾液腺」という粘膜下にある腺組織の数が減り、唾液がうまく分泌されずに口が乾いてしまうんです。
そしてもう1つ、大唾液腺と呼ばれる、耳下腺・顎下腺・舌下腺という3つの大きな唾液腺があります。唾液を作って排出する、貯水槽みたいなものですね。それが加齢の影響を受けて萎縮するのですが、一番顕著に萎縮するのは耳下腺です。耳下腺はサラサラの唾液を作っていますので、これが萎縮すると口の中からサラサラ成分が消えてしまいます。つまり年をとると、粘つく感じが強くなっていきます。アルカリ性・酸性といった口の中のpHを調整しているのも耳下腺で、耳下腺からの唾液が少なくなると口の中が酸性に傾くため、歯が溶けやすく虫歯になりやすくなってしまうことも口の老化現象として考えられます。
もう1つ、顎の骨が外れやすくなります。皆さんあまり意識されていないかもしれませんが、虫歯や歯周病で歯がなくなると、顎の骨はだんだん痩せて細くなり、関節の骨も痩せてきます。おじいちゃんやおばあちゃんの口元をイメージしていただくとわかりやすいかもしれませんが、噛むときに歯がないと、口がぐしゃっと潰れたような状態になるんです。すると、顎の関節を開け閉めしたとき、顎の1cmほど手前に動く場所があるんですが、ここにすごく力がかかって、カコっと外れるんですよね。
このように、「歯がなくなる」「粘膜が薄くなる」「口が渇く」「顎の骨が細くなる」「顎関節が外れる」という5つが口の老化の特徴です。私は常に高齢の患者さんの口腔内を見るときは、虫歯や歯周病も大事ですが、今言った5つの要点をしっかりと押さえて対応にあたっています。
岡崎
歯医者さんは、実はとても深いところまで見ているんですね。それを踏まえて、今回のご相談内容を整理してみますと、歯科治療が必要だけれど受診を拒否されている、食事を噛むところですでに問題が発生している、液体はむせやすいのでとろみをつけている、食べにくくて食事に時間がかかってしまうのでご本人が疲れずに栄養を摂る方法を知りたいということですね。
とても痩せているとのことですが、栄養不足で体力が低下し、筋肉がないということでしょうか。それで介助者の負担が増えていることも問題点なのかなと思います。歯科治療を拒否される場合、どんな理由が多いですか?
長谷
歯科治療を拒否される理由としては、過去に痛い経験をしたり、怖い思いをしたりというネガティブな体験が、認知機能が低下しても潜在的に感覚として残っていることが多いからだと言われています。
過去の記憶が原因となっているケースが多いので、我々歯科医側もそれを紐解くような形で介入する必要があります。歯科医院という空間に行きたくないという方には、こちらから訪問診療という形で患者さんのところに伺っています。最も落ち着いて過ごせる、住み慣れたご自宅という環境で、いきなり治療をするのではなく、例えば口をホットタオルなどで温めてリラックスしていただき、優しく声かけをしながら介入していくこともありますね。
岡崎
歯科訪問診療というものが、まだあまり知られていない気もします。ご自宅で療養されている方でしたら、ケアマネさんや主治医の先生などに相談して、訪問できる歯科医師の先生につないでもらえばいいのでしょうか?
長谷
そうですね、地域差はあると思いますし、歯医者さんはたくさんいるのですが、歯科訪問診療を行っている歯科医院の数は全国的には少ないですね。高齢者の数に対して、少ないと言われています。
自宅周辺で訪問してもらえる歯医者さんをどうやって見つけるかというと、一番手っ取り早いのは地元の歯科医師会に直接連絡すること。訪問できる歯医者さんのリストを作られていることが多いので、そこで紹介を受けるのが1つの方法かなと思います。
あとは訪問看護ステーションや主治医の先生とつながっている歯科医師の先生がいらっしゃれば、紹介してもらうことができます。「歯科訪問診療」をキーワードに、いずれかの方法で探してみると良いかと思います。
岡崎
最近では、特に痛いところがなくても、定期的に歯科の健康診断を受けたほうが良いと言われていますが、なかなか行かない方が多いとも聞いています。
お便りの患者さんのように、治療が必要と思われる方が受けないままでいると、どんなリスクがあるのでしょうか?
長谷
この方は60代の男性でまだ若いですが、脳梗塞の既往があって、少し引っかかるのは認知機能が低下しているというところです。おそらく背景からすると、脳梗塞を原因とした血管性の認知症かアルツハイマー病かもしれませんが、認知面の低下があって歯医者さんに行けないと、口の中が雑菌だらけになり、肺炎のリスクも高まります。食べられなくて栄養が摂れず、痩せも進んでいますので、栄養の管理と歯科治療を早急に行わなければなりません。また、口の中の細かい評価まではわかりませんが、噛み合わせが全くないのかなと思うんですね。丸呑みしているような状態だと、突然窒息されたりしないか心配になってしまいます。どれくらい噛めているか、飲み込めるかという機能評価を一度受けていただき、食事の形態も歯科治療と一緒に見ていただくのが良いかなと思います。
岡崎
なるほど。どうしても歯医者さんと栄養士さんは、まったく別の職種としてイメージされがちかと思います。歯科の先生が食べやすい食形態を考えたり、栄養士さんが食べているのを見て口に問題があることに気づいたりと多職種のチームで患者さんを診ているということも聞きます。
先生は前回も、その方に合った食事が大事だとおっしゃっていましたが、その方に合う食形態を見つけるにはどんなところがポイントになりますか?
長谷
食事の形態も硬さや粘度、粘着性、食材をカットするサイズなど、様々な調整の仕方があります。私は大きく分けて、噛むことと飲み込むことの2つの機能を総合的に評価して食事の形態を決定しています。
訪問診療でも、鼻からファイバーという直径3mmほどの細いカメラを入れて飲み込みの評価をします。カメラを拒否される方の場合は、聴診器を喉に当てて評価します。
実際の食材を使って、今の口の状態でどの程度のものまでなら安全に食べられるかを評価する方法もあります。また、治療をしながら、どれくらいの食事の形態まで上げていけるのか、実際に食事を提供して食べていただきながら探っていきます。もちろん主治医の意見や、患者さんご自身の希望も聞きながら、なるべく自然な形に近づけたいという理想のもとで行っています。
このように、実際の食事を食べる様子を、歯科治療の1つの指標にしています。
岡崎
そうなんですね。この方のご相談では、「食べているご本人も疲れないで」ということで、食事がある程度短時間で、なおかつその方に必要な栄養量が確保できる、そういった食事を提供したいということだと思います。こういう場合、先生はどのようなところからアプローチされますか?
長谷
何をしたいかという目的にもよりますが、この方の場合は明らかに食べてはいても、うまく栄養になっていない、疲れやすくて介助する方も疲弊してきていることが覗えます。食事の難しいところは、「食べる」を見る専門家がいないところなんですね。
私も先ほど歯科医の立場として、「口の治療は大事ですよ」「食事の形態をマッチさせることを指標にしながらやっていますよ」と言いましたが、食べることにはそれ以外にも消化の問題や、「食物認知」といって、食べるものを食べ物としてうまく認識できているかどうか、そしてその覚醒レベル、すなわち食べる行為自体をどれくらい理解できているかも関係してきます。
また、この方は薬の情報がありませんが、血液をサラサラにする薬や認知症の薬を飲んでいるとすれば、そういったものが食べる機能にも影響してきますので、薬のチェックも必要です。
あとはもちろん、栄養状態の評価ですね、手足もかなり痩せて細くなっているとのことなので、栄養状態も細かく見なければいけません。
もう1つは、調理環境です。「こういう食事を準備してください」と言っても、そもそもご家庭でそれを調理できる人がいるのか、調理場があるのかどうかといったことも大事です。
最後に、どういった姿勢でこの方が食事をしているのか、食事時の姿勢ですね。
これらをポイントに、歯科だけじゃなく、栄養士あるいは管理栄養士、リハビリ職の方、看護師、歯科衛生士など、できるだけ多くの職種でチームを構成することで、同じ「食べる」を見るにしても、いろんな視点で多角的に見ることができます。いろんな専門職が入った多職種のチームで、食を見る利点はそこにあるのかなと思いますね。
ポイント1
噛む力・飲み込む力・食べ物への認知力を専門家と一緒に確認!
その人に合った食事のカタチを探っていこう
食事に時間がかかって疲れてきたらどうする?
岡崎
食品の面から考えると、どんなものを利用したらいいですか。
長谷
そうですね。今食べているものを続けていると、もっと痩せ細っていくことが懸念されますので、プラスアルファの栄養素を摂取しなければいけないと思います。痩せて手足も細いとなれば、筋力をつけることを考えるとたんぱく質も必要ですし、脂質や糖質、ビタミン、ミネラルも必要となってくると、栄養補助食品を使うのがおすすめです。飲料タイプのものでもゼリータイプのものでもいいです。
飲み込む障害があると飲料タイプはむせたりするリスクが高く、今度はとろみをつける工夫も必要になってきます。誤嚥やむせをなるべく予防しながら栄養素を補助するために、嚥下困難の方にも適したゼリーとしてニュートリーのブイ・クレスCP10ゼリーやプロッカZnなどがあります。ゼリーだと嚥下困難な方でも比較的飲み込みやすいですし、形状的にもマッチしていますので、そういったものを食事の最後、あるいは間食に挟んでもいいかなと思います。
食事時間は長くなると疲れてきますので、1回あたりの量を少なくして、細かく間食を挟みながら対応するのも1つのやり方かなと思います。
岡崎
そもそも食事が疲れるというのは、なぜでしょうか?
長谷
元気な方は食べ物が口の中に入ると、ぐちゃぐちゃもぐもぐって食塊を形成して、自分のタイミングのいいところで「ごっくん」っていう反射が起こるんですけども、歯がなかったり飲み込む力が弱くなったりしていると、うまく口の中で塊を作ることができません。すると、それだけでそこに意識がいってストレスになりますし、飲み込む力が弱いと喉に残る量も増えてきますので、そこでまた疲れも出てきます。
そして、ごっくんするときは呼吸とのタイミングがとても大事なのですが、それがうまく計れないと何回かごっくんしているうちに呼吸がつらくなってきて、心労にもつながります。まずはいろんな職種が入って、何が原因になっているのかを追求するところから始めないといけないかなと思います。
岡崎
確かに自分もごっくんとしたときは、息を止めているなと感じたのですが、体力が衰えてきた方にとっては、呼吸を止めることも疲れの原因ですか?
長谷
まさにおっしゃる通りです。飲み込むときは「嚥下時無呼吸」と言いまして、呼吸が一旦止まるんですよね。それでごっくんって飲み込んだあとは息を吐きます。
夏の暑い時期に麦茶やビールをごくごくって飲んでいるところをイメージすると、必ず皆さん、最後に「ああーっ」て息を吐かれますよね。あれが無呼吸のあとの呼気です。ちょっと大げさな表現ですが、ああいったことを普段我々は食事しながら、無意識のうちに何回も繰り返しているんです。でも例えば、年を取って心不全などが出てきて呼吸が十分にできなくなってくると、ごっくんするときの無呼吸が食事の時間の経過とともにだんだん重なってきますよね。
最初の5分くらいはうまく食べていても20~30分も過ぎると疲れてきて、食事が口の中から先へ進まなくなってくるときは、往々にして呼吸とのタイミングがずれていることが多いです。あとは手足に麻痺があったりすると、うまく食事自体をつかめないのでイライラ感や疲れも出やすく、姿勢が崩れると体も緊張してきます。そういうときは食事の途中からでも良いので、食事介助などのサポートも必要かと思います。
岡崎
心も体も何か緊張を強いられると、疲れるということですかね?
長谷
本来、食事の時間はリラックスするべきですよね。心理的な満足を得ながら楽しんだり、談笑しながらとるべき食事が、窒息したらどうしようといった心配があると体にも力が入りますし、緊張の時間に変わってしまいます。そこは食環境の面をサポートする視点も必要なので、多職種でいろいろと話し合って問題点をピックアップすることが大事ですね。
ポイント2
"食事が疲れる"背景にある問題を多職種で探る
食事時間を短縮できる栄養補助食品の活用や、介助などのサポートを
栄養を摂ることばかりにとらわれなくていい
岡崎
次は味の問題なのですが、脂質や糖質を増やしたいときに、栄養補助食品的なものは甘いものが多いと訴える方がいると聞いています。
そういうものを食べ飽きてしまったとき、先生の食支援のグループ内で何か味覚の工夫をされている例やエピソードはありますか?
長谷
確かにいくらおいしいものでも毎日毎食、連日それが出てくると嫌になると思います。やはり食事には変化や刺激が大事ですね。栄養のことを考えて高カロリーのものとなると、甘く、物性もねばっとした濃厚な感じになります。さすがに栄養補助食品だけでは食事は成立しませんし、食べてくれないと始まりません。
昨日、訪問診療に伺った方も、必要な栄養を摂るためには、甘ったるいどろっとした流動系の食事を朝・昼・晩それぞれ1回につきどんぶり2杯食べないといけないとのことでした。見ただけでも嫌になるくらいで、実際にその方はもう食べる気力が全くなくて。でも、「ほかに何か食べたいものはないですか?」と聞いてみると、あれ食べたい、これ食べたいと具体的なものをあげられたんです。
するとその中に、今の機能ではそのまま食べるのは無理でも、物性を崩せるものがありました。具体的には「うどんが食べたい」と言われたのですが、麺をすするという行為は非常に高度な口の機能が必要で、先ほどお話しした嚥下時の呼吸についても特別なんです。
そこで、うどんを細かく切って少し"あん"をかけたものをお出ししたら、うどんの味もお出汁の味もしっかりするので、たくさん食べていただけました。
ですから、栄養補助食品ばかりにこだわらず、視点を変えてもいいのかなと思います。とにかく食べてくれないと始まらないので、食べられそうなものを提供しています。栄養補助食品は、カロリーは高く設定されていますし、いろんな味のゼリーも出ているんです。しかし、牛丼味やカレー味、エビチリ味のゼリーがあっても、食感がやはり大事なので正直ちょっと......。
岡崎
頭が混乱しますよね。
長谷
かえって食物認知機能が低下している認知症の方は、全く食べてくれないですね。人は食べ物の形や色などが、頭の中である程度過去の記憶と結びつかなければ食欲につながらないところがあるので、普段の食事や食べたいものの中から、物性をちょっと調整・工夫するという方向で進めてみるのはいかがでしょう。
ポイント3
栄養補助食品も、食べられなければ意味がない!
食べ慣れたものや好きなものを食べやすく調整してみよう
好きなものならむせずに飲み込める?
岡崎
ちょっと質問です。ご自身が好きなものやおいしいと思っているものは、普段むせる方でも意外とむせずに食べられるという話を聞いたことがあるのですが、そういう経験はありますか?
長谷
たくさんあります。介護食が進まないのは、食べ慣れてないこともあるかもしれないですね。口に入れたときの感覚とか、口の中から喉の方へ送り込むときの違和感といいますか。だとすると、普段食べ慣れたものや昔すごく好きだったものは、口に入れたとき直感的にごくっと飲み込めるのかもしれません。
この前、訪問診療した方でも、水やお茶、味噌汁もむせてうまく飲めないのでとろみをつけるという話になったのですが、その方はグレープ味のフルーツ炭酸飲料がお好きで、それだけはなぜかうまく飲むんです。
炭酸は喉に刺激があって、良い方向に働くという報告もある一方、むせやすいという報告もあります。なぜか不思議ですが、飲み慣れているからか、そういった過去の食体験などによって、好物は上手に食べられるのかなと思います。
それも大きなヒントで、食事の形態ばかりにこだわらず、その方の嗜好をご本人やご家族から聞き出してみると良いかもしれないですね。
あまり食事の形態を崩しすぎると、1935年にジョン・リドリー・ストループという心理学者が提唱した「ストループ効果」というものが働きます。人は食べ物を目の前にしたときに、その食事の色は右脳で、形は左脳で判別して、これは食事だと認識して食べるというのです。この食事の形をゼリー状とかペースト状とかドロドロぐちゃぐちゃに崩して、何かわからない状態で「はい、食べてください」と言われても、得体の知れないものを口元に運ばれるほど怖いものはないですよね。
そこで拒絶が出てしまうんです。頭の中で食事の情報が干渉しあってうまく食べることができないとき、このストループ効果が働いているのではないかという説もあります。
岡崎
栄養状態を良くするには、エネルギーばかりではなく、やはり食事としてその人が楽しめるようにすることが必要ですよね。
長谷
そうですね、見た目も大事ですし。
岡崎
過去の記憶とか、そういったものが大事ということにもなりますかね。
長谷
人は五感で食べているとよく言われますが、その中でも大事なのが歯ごたえや食感などの「物理的なおいしさ」です。このお便りの方は歯があるかないか詳しく書かれていませんが、歯ごたえや歯ざわりというのはすごく大事ですね。
日本語には「サクサク」「ポリポリ」など食感を表すオノマトペが、455もあると言われていて、世界言語の中でダントツなんです。第2位はフランス語なのですが、日本語の半分ほどとなります。それくらい日本人の舌は繊細だと言われていて、おそらく和食から培った遺伝子的な、脈々とした流れがあるのかなと思います。
物理的食感を感じることは脳への刺激にもなるとされ、それが噛むことの重要性、大切さだとも言われているんですね。それ以外に香りや見た目も科学的なおいしさとされていて、味覚と嗅覚、そして視覚からの情報、これらが合致しないとなかなか食からの心理的な満足感が得られないと言われています。
岡崎
だから最近、介護食とか嚥下調整食が色合いを考慮したり、元の形を再形成したり、そういった工夫をしているんですね。
長谷
「食べたいな」という心理的な欲求も「食べる」ことへ誘導してくれるものですね。
岡崎
ご家庭で調理するのは大変かもしれませんが、市販のものもうまく使いながら五感をくすぐるような食事が提供できるといいですね。ありがとうございました。
ポイント4
好きなものなら上手に食べられることも......?!
「食べたい」という気持ちが「食べる」につながる
今回のまとめ
「食べる」機能には口の中の状態はもちろん、心理的なことも影響する
味覚、嗅覚、視覚からの情報で食べたくなるような工夫を!

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