問題解決する栄養療法⾷品

読む介護飯(かいごはん)ラジオ

ここで学べること
「高齢者の痩せ対策委員会」がお届けするPodcast番組「専門家が答える介護飯ラジオ」のWEBページ版です。食支援の専門家をゲストにお招きし、リスナーから寄せられた、介護や食事、痩せに関するお悩みに回答します。

専門家が答える読む介護飯(かいごはん)ラジオ 第14回
そのお口で食べられる?うまく噛めない方の食事の工夫


※本記事はPodcast番組「介護飯ラジオ」第14回のWEBページ版です。



【介護飯ラジオとは】「専門家が答える介護飯(かいごはん)ラジオ」は、「高齢者の痩せ対策委員会」がお届けするPodcast番組です。食支援の専門家をゲストにお招きし、リスナーから寄せられた「食事」や「痩せ」に関するお悩みに回答、明日から使える実践的な解決策やヒントをお伝えします。「Podcastでの配信内容を文字で読みたい」「気になったエピソードを振り返りたい」という方のために、こちらのWEBページ版「読む介護飯ラジオ」をご用意しました。


■パーソナリティ紹介
岡崎佳子(ナースマガジン編集長)
父はレントゲンの設計士、母は看護師という両親のもとで育つも医療・看護の道には進まず。転職を繰り返すも、常に扱うテーマが栄養・食事という不思議な巡り合わせ。両親を在宅で看取るという体験を経てたどり着いたのは、看護情報誌「ナースマガジン」編集の仕事。取り扱う多様なテーマに四苦八苦しながら、気がつけば前期高齢者。滑舌が悪くならぬよう、口形体操が日々の日課。


■ゲスト紹介
稲山未来(Kery栄養パーク代表・管理栄養士)
施設での高齢者支援を通じて栄養の重要性を再認識し、在宅訪問栄養指導を開始するも、現場での栄養管理の限界に直面。地域への栄養教育、在宅訪問管理栄養士育成を目指して2021年に独立。Kery栄養パークを開業し、栄養講座の開催、管理栄養士の教育コンサルティングを実施。また、東京都新宿区の「ふれあい歯科ごとう」で訪問栄養指導も行っている。目標は「在宅支援の現場に管理栄養士の介入が当たり前になること」。




歯医者さんに通えなくても大丈夫
歯科訪問診療を知っていますか?


岡崎
今回のテーマは「そのお口で食べられる?うまく噛めない方の食事の工夫」です。 食べるためには、噛む力や噛むことのできる歯があること、噛み合わせが良いこと、お口がよく動く状態であることなどの条件があります。今回は歯科の先生方とも一緒にお仕事をされている稲山先生だからこそ伺えるお話がたくさんあるかと思います。


―50代女性からのお便り―

もうすぐ80歳になる母は、歯周病のケアや入れ歯の調整のために歯医者さんに通っていましたが、転んで骨折して入院してからは家でほぼ寝たきりの状態となり通院できません。私も主人も自営でお店をやっているので、平日の通院の付き添いが難しく、寝る前の歯磨きくらいしかケアらしいケアはできていません。そこで気になったのが、歯茎の腫れです。歯もグラグラしているようで、この状態では食事もしづらいだろうと思います。
ヘルパーさんに母の食事を作ってもらっていますが、やわらかめにしてもらっても残すことが多くなりました。どんなことに気をつけてもらえば良いでしょうか?ヘルパーさんには生活介護全般をお願いしているので、食事作りだけに時間を割くのは難しいと言われます。



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岡崎
ちょっと大変なようですが、最初にやるべきことは歯の治療なのでしょうか?


稲山
まずこの娘さんは、お母様の口の中をしっかり見ていて、「歯茎が腫れているな」とか「歯がグラグラしているな」と気づけたことが素晴らしいです。
人の口の中ってなかなか見る習慣がないので、開かずの扉ではないですけど、家族でも「口開けて見せて」って言えないんです。「見ちゃいけないかな」と思っている方も多くて、母親や父親の歯が自分の歯なのか入れ歯なのかも実は知らないという方も結構います。ですので、まずご家族が歯の状態に気づけたということが素晴らしいと思いました。


岡崎
家族のお口の中はなかなか見ないですよね。また一般の訪問診療に来ていただいても、先生方がお口の中まで見てくださるという話はあまり聞かないですよね。


稲山
私も自分の両親が入れ歯にしたのか、いくつぐらいでどんな歯の治療をしたのかを知らないですからね。
通院もできずどうしたら良いでしょう......というご質問に関してですが、私の所属している歯科医院では、外来での治療に加えて、歯医者さんが車や自転車で患者さんのご自宅に伺って治療をする歯科訪問診療というシステムがあります。これを利用すると、歯周病のケアや入れ歯の調整、虫歯の治療、抜歯などができます。今は器具なども整っているため、歯科訪問診療で自宅でも外来と同じくらいの治療が受けられます。まずは対応してもらえるところを探して歯医者さんに来てもらうのが第一歩ではないかなと思います。


岡崎
おうちに歯医者さんが来て治療をしてくださるんですね。


稲山
はい。まだそこまで認知度が高くなくて、どうにかして家族が歯医者に連れて行かなくてはいけないと思われている方も多いのですが、歯科訪問診療を行っている歯科医院の数も増えてきています。お近くの歯医者さんや、今までかかっていたかかりつけの歯医者さんに訪問してもらえるか聞いてみると良いと思います。


岡崎
なるほど。歯科医院でも、訪問診療を積極的にやるようになってきているのですね。


稲山
そうですね。やはり高齢化に伴って患者さんもどんどん高齢化して、歯医者に通えなくなっていくんですよね。
若いときからずっと治療や検診に通っていた患者さんがしばらく来ていないことに気づいて、「通いづらいなら訪問してみよう」と訪問診療を始める歯医者さんも多いです。


岡崎
それはちょっと嬉しいですね。


稲山
いつも診てくれていた先生に自宅で診てもらえるので、安心感もありますよね。


岡崎
歯医者さんは、キーンって機械で歯を削ったり、歯を抜いたりするので、怖いイメージもありますが、おうちのほうが落ち着くかもしれません。
訪問の場合も、主な治療はだいたいやっていただけると考えて良いのですか?


稲山
歯医者さんによって訪問診療でどこまでの治療ができるかは少しずつ違うのですが、今は持ち運べるポータブルの機械もあるため、自宅でも歯を削ったり、削ったところに詰め物をしたりできますし、インプラントの管理をしてくれる歯医者さんもあります。


岡崎
そうすると、虫歯をなくす、痛みを取るといったことがおうちでもできて、食べるために必要な口の環境が整えられるんですね。


稲山
そうですね。お便りのお母様の「歯がグラグラする」という状態だと、もしかしたら歯を抜かなければいけないかもしれませんが、抜歯も自宅でできます。歯茎が腫れているのは、腕が動かしにくくなって歯磨きが難しくなっているのかもしれないですね。
訪問するときは、歯科医師だけではなく歯科衛生士が同行して、歯の磨き方を指導したり、専門的なケアとして定期的に歯茎や歯の間をきれいにしたりします。そうすると口の中の環境が整って、やっと食べる準備ができてくるんですよね。


岡崎
私が若い頃に「芸能人は歯が命」というコマーシャルがありましたが、今のお話を聞いて、誰にとっても歯は命に直結するんだなと思いました。


稲山
その通りです。歯がなければ咀嚼をして食べることができないので、歯は誰にとってもすごく大切ですね。


岡崎
私の知り合いに、高齢で歯が1本しかないとか歯茎しかないような状態でも、平気でご飯を食べている方もいるんですよね。
高齢になるとともに、歯の本数が減ったり、丈夫な歯ではなくなったりしても、食べやすく噛みやすい食事を作るために工夫できることはありますか?


稲山
「噛むことが難しくなってくると、どう食事が変わっていくか」ということについては研究が盛んに行われていて、なんでも噛める人たちと、噛むことが難しくなってきた人たちの食事を調べた調査があります。
噛むことが難しくなってくると、肉や魚など繊維が固いものや筋っぽい野菜などの摂取量が、噛める人に比べて少なくなることがわかっています。


さらに、そうなると知らず知らずのうちに食べられるものの種類が減って、肉や魚から摂れるたんぱく質の量が減ったり、野菜から摂れる食物繊維が減ってお通じのコントロールが難しくなったりします。今は「オーラルフレイル」という口の中の衰えについての啓発運動が盛んに行われていますが、口の中が衰えることは低栄養につながると言われているんです。


岡崎
お肉やお魚、野菜というと、たんぱく質や食物繊維を含んでいますが、こうした本来摂ってほしい栄養が、摂れなくなってくるということですよね。


稲山
そうですね。噛みにくくなったから食事が変わっていくわけで、それで歯科治療で入れ歯を作ったりするのですが......。驚いてしまうのは、長年噛みにくい状態を続けていると、それが当たり前になってしまい、口の中の環境を整えても栄養の摂取量が変わらない方も多いのです。


岡崎
え? 整えても変わらないんですか?


稲山
そうなんです。私自身も似た経験があって。ずっと「噛み切れないお肉が嫌い」と言っていたんです。それが大人になってから歯科矯正をして、歯並びがきれいになったら、肉や魚が食べやすくなったんですよ。そのとき、肉の味が嫌いなのではなく、食べにくいから嫌いだったんだと改めて気づきました。
食べにくいものは食卓に並ばなくなっていくので、歯や口の中の環境を整えたあともそのまま食卓にならんでいないことに気づかないんです。例えば奥様が「うちの主人は肉が嫌い」と思っていると、入れ歯を作ったからといって「じゃあ、お肉を食べましょう」とはあまりならないのかもしれないですね。


岡崎
そこは視点を変えたほうが良いですね。


稲山
あとは、食べることにかかわる歯科医師や、私みたいな管理栄養士が食事のチェックをして、摂れていないものや食べにくいものを聞いて、バランスの良い食事に整えてあげることが必要かもしれません。


ポイント1
歯科診療を受けて、口の中の環境を整えることが食べるための第一歩!
口の中が衰える"オーラルフレイル"は低栄養につながる




噛むことを諦めない! そのための方法は?


岡崎
先生が実際に訪問先で食事についての相談を受けたとき、具体的に食べやすくしたり、ご本人が食べたくなったりするような工夫として、どんなことをされていますか?


稲山
やはり硬いものが噛みにくくなってしまうと、噛みにくいものは食卓に並ばなくなっていきます。でも噛みにくいものを諦めると、そこから摂るべき栄養も摂れなくなってしまうので、諦めずに工夫することをおすすめしています。
今回のお便りではヘルパーさんがお食事を作られているということなので、例えば圧力鍋を使おうとすると時間が足りないですよね。そんなとき、私は食材を変えて、調理方法はあまり変えないというアドバイスをしています。


岡崎
食材を変えて、調理方法は変えない?


稲山
そうですね。手間をかけずに同じ栄養を摂るために、お肉だったら薄切りのしゃぶしゃぶ肉や挽肉に変える方法があります。例えば焼肉をアレンジして、薄いお肉を炒め物にしたり、同じ味付けで挽肉を炒めたり、ハンバーグみたいにしたり。
ハンバーグを作るのは面倒だと思われるかもしれませんが、薄いビニール袋に挽肉と卵などを入れてもみ込むようにすると、ボールなどは使わず手も汚さずにタネを作ることができます。そのビニール袋の端を少し切って絞るようにしてフライパンに流し込めば、こねなくても簡単にハンバーグや肉団子が作れます。それを焼いてあんかけにしたり、野菜の煮物の中に入れたりすると、意外と時間をかけずに食べやすくできます。


岡崎
なるほど。確かに塊の肉を調理するよりも短時間で食べやすくなり、同じ栄養やエネルギーが摂れますね。


稲山
近年、食べるものと噛むことに関連する研究が多くあります。その中に、食品ごとにどのくらい噛む回数が必要なのかを調べた研究があるんです。
その研究結果を踏まえ、栄養指導をする際は、最初はなるべくやわらかい食品からトライして、少しずつ硬さのある食材、つまり噛む回数が多いものへと段階的に進んでいくようにしましょう、と話しています。


岡崎
噛むことが大事で、やわらかいものばかり食べるのは良くないため、そういう指導をしているのですね。


稲山
あとは実際にどんな食品を選んだら良いかがわからないかもしれないので、最初はやわらかく煮た大根から始めて、その次はカボチャ、次は生の野菜、最終関門は生のニンジンなどというように、具体的な食品名をお伝えしています。


岡崎
とてもわかりやすいですね。これまでのお話に出たことをいろいろ組み合わせていくと、おうちでも食事の工夫はできそうです。


稲山
そうですね。食材をやわらかくするための介護用の圧力鍋も市販で売られているので、お時間があるときとかお料理が好きなご家族様だと、そういうのを使ったりしています。でも、ヘルパーさんの訪問時間が限られているなかで料理するとなると、工夫が必要になるかなと思います。


ポイント2
調理法を変えなくても食材を変えるだけで食べやすくなる!
噛む力を上げるには、段階的にやわらかい食材から硬さのある食材へ




時間をかけずに食べやすい食事を作るワザ


岡崎
お便りでは、食事作りに時間は割けないけれど、食べやすくて栄養価を落とさない食事作りをしたいということです。難しそうですが、稲山先生ならではのワザを教えていただけますか。


稲山
時間が限られるときは、市販の商品をうまく活用することをおすすめしています。例えばスーパーやコンビニで買えるレトルト食品の中には、噛むことが難しい方でも食べやすいものがいろいろとあるんです。


例えばハンバーグでも商品名に「ジューシー」とか「しっとり」などとついているものは、肉汁がたっぷりでやわらかくて食べやすかったりします。介護用の食品ではなくても応用できるものはたくさんあります。
あとは食べやすくするために、水分量を増やす方法もあります。例えば、炒め物よりは煮物のほうが食べやすいです。煮物はいつも醤油味で代わり映えしないと、毎日作るのはちょっと......と思うかもしれません。そんなときに役立つのが「鍋の素」なんです。今はひとり暮らしの方向けの鍋の素として、キムチ鍋とかちゃんこ風とか、いろんな種類が出ています。そういうものを使うと時短になりますし、味わいを変えれば毎日食べても飽きません。そうしたコツをお伝えすることが多いです。


岡崎
実際にそれをやってみたヘルパーさんやご家族からは、どんな感想が聞かれますか?


稲山
特に鍋の素を使うというアイディアは、皆さんスーパーで商品を見ているので、「あぁ、確かに」と言って喜ばれることが多いです。鍋の素を使って雑炊を作ってみたとか、さらにバリエーションが広がって楽しく食事が続けられていると伺っています。


岡崎
最近は1人分ずつキューブやポーションになった、鍋の素がありますもんね。


稲山
お料理というと、醤油とみりんと砂糖と......といろいろ揃えるだけでも大変なので、鍋の素のほかにもポン酢とかめんつゆとか、それだけ使えば料理が完成するものがたくさんあります。そんな視点でスーパーを回ってみると、いろんな発見があるので楽しいですよ。


岡崎
皆さんもぜひ楽しみながらやってみてください。


ポイント3
忙しいときは、市販品をうまく活用して時短を実現!
バリエーションも広がり、日々の食事がさらに楽しくなる




岡崎
最後に今日のお話のまとめとして、押さえてほしいことをひと言お願いします。


稲山
まず1つは、口の中のトラブルがあったら歯医者さんに行けないからと諦めるのではなく、歯医者さんに来てもらう方法があることを覚えておいてください。
そしてもう1つ、噛めないから食べないのではなくて、工夫して食べることを考えていただくと、栄養も摂りやすくなるかと思います。


岡崎
ありがとうございました。


今回のまとめ
歯医者に通えなくても大丈夫!食べるために歯科訪問診療を利用して口の環境を整えよう!
少しずつ噛む力をアップできるよう食材や調理法にも工夫を





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