読む介護飯(かいごはん)ラジオ
専門家が答える読む介護飯(かいごはん)ラジオ 第13回
栄養不足にならない自宅での食事作り・食事のコツ
※本記事はPodcast番組「介護飯ラジオ」第13回のWEBページ版です。
【介護飯ラジオとは】「専門家が答える介護飯(かいごはん)ラジオ」は、「高齢者の痩せ対策委員会」がお届けするPodcast番組です。食支援の専門家をゲストにお招きし、リスナーから寄せられた「食事」や「痩せ」に関するお悩みに回答、明日から使える実践的な解決策やヒントをお伝えします。「Podcastでの配信内容を文字で読みたい」「気になったエピソードを振り返りたい」という方のために、こちらのWEBページ版「読む介護飯ラジオ」をご用意しました。
■パーソナリティ紹介
岡崎佳子(ナースマガジン編集長)
父はレントゲンの設計士、母は看護師という両親のもとで育つも医療・看護の道には進まず。転職を繰り返すも、常に扱うテーマが栄養・食事という不思議な巡り合わせ。両親を在宅で看取るという体験を経てたどり着いたのは、看護情報誌「ナースマガジン」編集の仕事。取り扱う多様なテーマに四苦八苦しながら、気がつけば前期高齢者。滑舌が悪くならぬよう、口形体操が日々の日課。
■ゲスト紹介
稲山未来(Kery栄養パーク代表・管理栄養士)
施設での高齢者支援を通じて栄養の重要性を再認識し、在宅訪問栄養指導を開始するも、現場での栄養管理の限界に直面。地域への栄養教育、在宅訪問管理栄養士育成を目指して2021年に独立。Kery栄養パークを開業し、栄養講座の開催、管理栄養士の教育コンサルティングを実施。また、東京都新宿区の「ふれあい歯科ごとう」で訪問栄養指導も行っている。目標は「在宅支援の現場に管理栄養士の介入が当たり前になること」。
胃がんの術後、食欲低下の原因は?
岡崎
今回から4回にわたりゲストとしてお迎えするのは、kery栄養パーク代表、そして介護相談もできるカフェで栄養相談も担当されている管理栄養士の稲山未来先生です。訪問栄養指導に積極的に取り組んでおられます。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
稲山
よろしくお願いいたします。簡単に自己紹介をさせていただきます。私は、東京都新宿区の「ふれあい歯科ごとう」で訪問栄養指導を行っております。また、私のように訪問栄養指導をやってみたいという方のために「kery栄養塾」という管理栄養士向けのオンライン講座を行っているほか、地域活動として新宿区上落合にある「サニーデイズカフェ」で、ランチの提供や無料の栄養相談窓口の担当などをしています。
岡崎
皆さん、管理栄養士さんが自宅に来てくれたり、地域で食事のアドバイスをしてくれたりすることをご存知でしたか? 今回は稲山先生に無理なく実践・継続できる在宅高齢者の食事作りのヒントを、実例を交えて解説していただきます。
先生は東京都新宿区を活動拠点とされているそうですが、何名の管理栄養士さんたちが訪問栄養指導を行っているのでしょうか?
稲山
新宿区で在宅訪問をしている管理栄養士は、おそらく10~15名程度です。新宿区は在宅療養者さんの数もとても多いので、管理栄養士がまだまだ足りない状況ですが、歯科医院や在宅訪問を行うクリニックなど、さまざまな機関に所属した管理栄養士たちが訪問を行っています。
岡崎
これからますますニーズが高くなる領域だと思います。
では、本題に入ります。本日のテーマは、「栄養不足にならない自宅での食事作り、エネルギー不足を補う食事のコツ」です。
若い頃、胃がんで全摘手術を受けた75歳の夫についての相談です。たくさんの量を摂ることができないので、分割食を続けていますが、2か月ほど前に風邪をひいたことをきっかけに食欲が落ち、その後あまり食べられなくなりました。
本人に食べる意欲があるので、栄養のあるものを食べさせてあげたいのですが、私自身も体が自由にならず、買い物も調理も思うようにできません。胃のない夫に手軽で栄養のある食事を用意するにはどうしたら良いでしょうか?
岡崎
ずっとご主人の体の状態に合わせて食事を作ってこられたそうで、大変だったでしょうね。胃を全摘されているということですが、先生の訪問先にもこのような方はいますか?
稲山
はい。私が訪問している在宅高齢者の方の中にも、同じように胃がんで全摘手術を受けた方がいます。改めて胃を全摘した状態について簡単に説明します。
胃は、食事をしたあとに食べたものを溜めて消化をする器官で、これを摘出すると、食べたものがスーッと腸のほうに落ちていくようになるんですね。すなわち食べたものを溜めておくところがない状態です。
そうするとどうなるかというと、噛んで飲み込んだものが急に腸に入ってくるので、たくさん食べるとおなかが痛くなったり、吐いてしまったりすることがあります。あとは、急に入ってきた食べ物を、頑張って消化しようとして、血糖を下げるインスリンというホルモンがたくさん出過ぎてしまいます。その結果、低血糖でめまいが起きたりフラフラしたりといった副症状が起こることがあります。
対策としては、相談者のお話にもあったように分割食にする方法があります。私たちは1日朝昼晩3回食べることが多いですが、それに10時と3時を加えて5回にするなど、少量ずつ回数を分けて食べるのが分割食です。状況によっては、消化しにくい脂質や繊維質を減らすようにします。
それだけではなく、実は胃の上部からは食欲を増やすホルモンが出ているため、胃をすべて取ってしまうと、このホルモンの分泌量が減ってしまいます。頑張って食べようと思ってもなかなか食欲が出ない......というのは、実はこのホルモンの分泌量も影響しているのです。若いときは食欲がなくても一生懸命頑張って、無理に食べていたけれど、高齢になると体も動きにくくなって頑張っても食べられなくなり、食事量が低下してしまう方もいます。そういう場合は、少量でも栄養が取れるように、栄養補助食品を活用する方法もあります。
岡崎
なるほど。少量ずつ回数を分けて食べるとなると、それを用意する家族も大変だと思います。この方の場合のように、風邪をひいたことがきっかけで食欲が落ちてしまうことはあるのでしょうか?
稲山
はい。この方に限らず、高齢者は急な病気などによる体力低下に備えられる「予備力」がない状態なので、風邪で数日間ご飯が食べられないだけでも全身的な体力が一気に低下してしまうこともあります。
あとは風邪をひいたせいで鼻水が出てご飯が食べにくいとか、その鼻水を止めようとして飲んだ薬の影響で口の中が乾燥して食べにくくなったとか、風邪以外でも転んでしまって痛みがある、引越しをして生活環境が変わった、精神的にショックなことがあったなど、些細なきっかけで食事量が低下することがあります。そのような場合は、なるべく早めの対応が必要です。
岡崎
食欲が落ちてしまうきっかけはさまざまですね。
ポイント1
手術後の状況に応じて、機能を補う食べ方の工夫を。
些細なことが食欲低下のきっかけに...早めの対応がカギ!
食欲が湧かないとき、食べる人も作る人も負担なく栄養を摂る方法は?
岡崎
この奥様は毎日の食事の用意が体力的に厳しくなってきたとのことですが、それほど負担にならずに食事を作り、栄養を摂ってもらうにはどんな工夫をすれば良いでしょうか?
稲山
ご主人も胃がんで全摘をされていて、食べたいけれども、なかなか食欲が湧かないという状況なんですね。食事を摂ることがしんどいと思えば思うほど食事自体が嫌になって、食事を見るだけでネガティブな気持ちになります。そういう気持ちのときに食べるのは難しかったりしますよね。ですから、ネガティブな気持ちが悪循環しないように良い循環に変えていくことが大事です。
また、栄養価の高いものだけでなく、おやつでも何でも良いので、楽に食べられるものやおいしいと思えるものを見つけて成功体験を積み重ねていくことも効果的です。栄養補助食品を使ってみるのも1つの方法です。
あとは私がよく在宅の患者さんにおすすめするのは、果物や野菜を使ったスムージー。料理よりは手軽においしく作れますし、奥様も一緒に飲めますので、いろんな食材を入れてジューサーにかける方法をお伝えしています。
岡崎
それなら手軽に取り組めそうですね。栄養のあるスムージーを作って、一緒に飲んでいただいて、栄養不足にならないようにしていただきたいですね。スムージーを作るとき、入れると良い食材はありますか?
稲山
お豆腐ですね。たんぱく質も摂れますし。また、食事量が減ってきている場合、なるべく高カロリーなものを選ぶこともポイントです。油ものを食べると太りそうとか、生活習慣病になりそうとか、油にあまり良いイメージを持っていない方もいますが、少量で効率的にエネルギーを摂るには油を上手に使うことが大事です。例えば、スムージーにオリーブオイルなどを足すと、ぐっと摂取エネルギーが増えます。
岡崎
負担なく栄養を摂るために、飲み物のほかに良い食べ物はありますか?
稲山
負担なくということで、私は少しずつ食べられるおやつなどをおすすめしています。一番のおすすめはかりんとう饅頭ですね。一度揚げているのでカロリーも高く、あんこの甘さは好きな方が多いため、小さなお饅頭であればあまり食欲がないときでも一口か二口で食べられます。そのほか、チョコレートやキャラメルなどをリビングに置いておいて、そこを通ったときに1つ食べてもらうとか、少しずつでもエネルギーを重ねて摂っていくことをおすすめしています。
注意点としては、健康に配慮された「低糖質」「低カロリー」の食品は、若い方のダイエットには良いですが、高齢で食事量が減って効率的にエネルギーを摂りたい方には適さないんです。良かれと思ってたくさん食べても体力が増えていかない......なんてこともあるので、できれば専門家に相談して、どんなものを食べたら良いかを考えながら選んでほしいと思います。
岡崎
分割食と聞くと、お料理を作らなきゃいけないと思いがちですが、手軽に食べられるおやつでも良いのですね。そう思うとだいぶ気が楽になるのではないでしょうか。
この方は胃がんでしたが、ほかにも舌がん、食道がん、大腸がんなどで手術をされた方もいらっしゃると思います。退院後に栄養不足でお困りの場合、病気や手術によって低下した機能をカバーするような食事をどのように作ったら良いのか、その辺のポイントも教えていただけますか?
稲山
がんと一口に言っても、どこのがんだったのか、どの部分をどんなふうに手術したのかによって、その後の影響は大きく変わってきます。
例えば、舌がんでは舌の一部分を切除して別のところから皮膚を移植する手術や、舌をすべて切除する手術などをします。口の中の手術を行った方は、やはり飲み込みの障害が出ることが多いです。
舌が上手に動かなくてうまく飲み込めないとか、手術した直後はどうにか勢いで飲み込めていても、年齢を重ねるうちに全身の筋力が低下して、口の中の機能も少しずつ落ち、手術から何年か経ったあとに嚥下障害の症状が出る方もいます。飲み込みの障害が出たら、飲み込みやすいなめらかな食事、粒のない食事など食事の形態を調整していきます。
食道がんも、手術によって通過障害が起きて、食べ物が食道をスーッと通りにくくなることがあります。もぐもぐと咀嚼はできるけれども、ごっくんと飲み込んだあとになかなか入っていかないので、通過障害がある場合はなるべくサラサラした水分のようなもので栄養を摂っていくことが必要です。
大腸がんも消化器系のがんですが、おなか周辺の手術を受けた方に多い後遺症は腸管癒着です。大腸がほかの部分とくっついてしまうと、腸の中で通りにくいところが出てきて、便が詰まってしまう腸閉塞のリスクがあります。その場合は、食物繊維を少なくしたり、脂分を減らしたりして、おなかへの負担を減らします。このように、がんの部位などによっても、それぞれ配慮の仕方が細かく変わってきます。
岡崎
そうなると、手術に詳しい医師と、手術後の体の状態に適した食事を考える管理栄養士さんがタッグを組んでやっていくのが良さそうですね。
稲山
そうですね。手術の直後はもちろん、その後も専門家と一緒にフォローしていくと安心かなと思います。
ポイント2
おやつなどで「食べられた」成功体験を積もう!
1人ずつ配慮の仕方は異なるので専門家と一緒にフォローしよう
要注意!栄養不足のリスクとは?
岡崎
ほかにも栄養不足に陥りやすい病気や、注意したほうが良い症例などはありますか?
稲山
はい。意外かもしれませんが、大腿骨を骨折した方は気をつけたほうが良いと思います。高齢の方は家の中で転んで、大腿骨という太もものあたりの太い骨を骨折してしまうことがよくあります。なぜ気をつけなければいけないかというと、1つは入院期間が長くなりやすいためです。退院までに時間がかかるので、環境が変わって病院の食事が口に合わないと十分に食べられない期間が1か月くらい続いてしまうこともあります。
もう1つは大腿骨を骨折すると、病院で食事をするときに車椅子や椅子に座ることが難しくなってしまいます。このような場合は、ベッド上で頭だけを起こして横になった状態に近い姿勢で食事を摂りますが、そうすると座ってご飯を食べるよりも舌の機能を使わないので、飲み込みの機能が低下してしまうことがあります。
そのため、骨折するまでは普通のご飯を食べていたのに、1か月の入院後に退院してきたら、家族と同じものが食べられなくなって食事量が減り、どんどん体重が落ちてしまう、そんな方が多くいらっしゃるのです。
岡崎
骨折自体が原因というよりも、骨折により食事の状況が変わってきたことで栄養が摂れなくなるんですね。
稲山
はい。あとは、体が骨折を治すためのエネルギーを必要とするため、普段よりもたくさん食べないと、筋肉や脂肪が分解されて骨折を治すエネルギーに使われてしまうんです。それでエネルギー不足が進むという背景もあります。
岡崎
なるほど。骨折にそういう背景があることは、改めて心に留めておきたいです。やはり骨折しないようにしっかり食べて、運動もして、転ばないような生活をしていただきたいですね。
あとは心疾患や呼吸器系の病気があるとエネルギーを使うと聞きましたが、そういう方はどのように食事をされていますか?
稲山
呼吸器疾患がある方は、呼吸をするだけでも多くのエネルギー量を消費してしまいます。また、咳が続いていると、咳をするにもエネルギーを使うので、普通に生活をしているだけなのにどんどん体重が落ちていくことがあって、悩まれているご家族の方もよくいらっしゃいます。そのような場合は、「今までよりもたくさん食べないといけないんだよ」と話をして、なるべく少量でも効率的にエネルギーを摂れるように、ちょっとオイルを足したりしています。
岡崎
たいへん参考になるお話がたくさん出てきました。明日からの食事作りの参考にしていただきたいと思います。
ポイント3
病気や怪我の回復にはより多くのエネルギーが必要!
脂質をうまく活用するなどエネルギーを効率的に摂取する工夫を
岡崎
最後に本日のまとめとして、ポイントを教えていただけますでしょうか?
稲山
1つ目は、食べられないとご飯を見るのも嫌になってしまい、さらに食事量が減ってしまう......という悪循環に陥ってしまうので、気づいたらなるべく早めの対策が大事ということです。
2つ目は、栄養を効率的に摂るために、栄養補助食品に頼っても良いですし、おやつを増やす方法もあります。バランス良く食べなければと思うと負担になってしまうので、おやつでも良いから好きな物を摂ってください。
岡崎
ありがとうございました。皆さん、それぞれお好きなものを少しずつでも食べていただきたいですね。
次回は噛むことに問題がある方の食事作りや、お口の中の問題をどうすれば良いかについて、稲山先生にお話しいただく予定です。引き続き、次回もよろしくお願いいたします。
稲山
よろしくお願いいたします。
今回のまとめ
食欲がないときは、おやつや栄養補助食品の活用がおすすめ
栄養を手軽に効率よく摂るための方法を考えて実践しよう!

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