ニュートリション・ジャーナル
※このページは、医療介護従事者向け情報です。
褥瘡を早く治す 国認可の病者用食品
日本国内の褥瘡有病率は世界一低い。褥瘡発生予防・治療に体圧分散、スキンケア、栄養が確立し、実践されてきたことが背景にあるものの、未だ褥瘡患者はゼロではない。昨今、エアマットレス普及により体圧分散ケアが行き渡ったことで、在宅褥瘡発生要因が「ベッド上不動」から「低栄養」へと変化し、「栄養管理」の重要性が増している。褥瘡治癒の過程で、たんぱく質、亜鉛、ビタミンCなどの栄養素が必要とされ、充足できるよう継続的な摂取が求められるが、食の細い高齢者がそれら栄養素すべてを食事から摂ることは難しい。 2021年8月26日、日本で初めて「褥瘡の食事療法として使用できる食品」として「ブイ・クレスCP10(シーピーテン)ミックスフルーツ」が特別用途食品の表示許可を得た。医療者は、個別評価型 病者用食品のマークを目印に、スムーズな選択と推奨が可能になる。また患者・家族の理解を得やすい状況が整うと言える。褥瘡患者へ栄養介入を行ってきた看護師3名による同製品を用いた症例報告を交え、看護ケアを更に確実にするための栄養補給の具体策を紹介したい。
在宅褥瘡発生の大きな要因は「低栄養」
日本褥瘡学会では、平成19年、褥瘡発生原因についての在宅実態調査を行っている。全国訪問看護ステーション2688施設の中から207施設を抽出し、褥瘡発生要因を調べた(褥瘡群290名は褥瘡発生前、非褥瘡群456名は最近1ヵ月)。
褥瘡発生要因には、ベッド・椅子上不動、過度な湿潤、過度な骨突出、浮腫などが挙がるが、調査の結果、ワースト1は「低栄養」であった。低栄養群と非低栄養群を比べると、低栄養群では褥瘡発生率が2.29倍も高かった(図1)。重症褥瘡の発生に関わる栄養状態の影響については1.88倍の発生率となり、褥瘡が重症化する要因も「低栄養」であることがわかっている。
近年、日本の褥瘡対策は、経験則ではなく、科学的な根拠に基づき、体圧分散ケア、スキンケアが行われている。身体にかかる圧力を減らすケアとして、エアマットレスの普及も目覚ましい。褥瘡は、一定期間身体に加わる外力が血流を低下させる、あるいは閉塞させることで、組織の代謝障害や循環障害を招く。エアマットレスの普及で体圧分散ケアがしっかりと実施されるようになったことで、低栄養の改善が必要であると明らかになったのである。
消費者庁許可特別用途食品
「褥瘡患者の食事療法」に
多施設RCTで有効性に根拠 コラーゲンペプチド配合飲料
低栄養状態に陥ると、皮膚の脆弱化、皮下脂肪層の減少などにより、外力からのダメージを受けやすくなる。褥瘡予防には低栄養改善が重要とされているが、食の細い高齢者は、食事から必要な栄養素を取り入れることが難しい。
近年注目を浴びている栄養素が「コラーゲンペプチド」である。コラーゲンペプチドは肌を作る線維芽細胞を直接刺激し、活性化させる働きがある。これにより、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸などを合成することで、創傷治癒を促進させ良好な肉芽組織を作っていく(図2)。
その効果を裏づけるのが多施設RCT(ランダム化比較試験)だ。コラーゲンペプチド10gを含む飲料を投与(飲用)する「CP10群」と「非投与群」での褥瘡治癒の結果を比較したところ、CP10群では非投与群に比べ有意に褥瘡重症度が低下した※。コラーゲンペプチドの摂取によって創傷治癒が促進されたことが明らかとなり、早期の治癒が期待できるようになった。また日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン第4版」では、特定の栄養素であるコラーゲンペプチドなどの成分を摂ることで、早期治癒の可能性があると発表している。
※ Yamanaka, et al: A multicenter, randomized, controlled study of the use of nutritional supplements containing collagen peptides to facilitate the healing of pressure ulcers. Journal of Nutrition and Intermediary Metabolism. 2017;8:51-9.
国のお墨付きを得た病者用食品 褥瘡患者・家族の理解と利用が進む
2021年8月、このコラーゲンペプチドを配合した「ブイ・クレスCP10(シーピーテン)ミックスフルーツ」が特別用途食品 個別評価型病者用食品の表示許可を取得した。表示許可においては、国の審査が必須となる。創傷治癒の有効性について認められたものとしては、過去に許可事例はなく、褥瘡治癒が期待できる栄養補助食品としては国内初の病者用食品表示となった。
今回の表示許可の取得によって、期待できる効果の根拠が医学的・栄養学的に認められたことで、医療者はもちろん、患者や家族にも安全性や有効性について理解が得られやすくなり、安心して推奨することができるようになった。
プロが教える「CP10」導入のコツとは?
褥瘡発生の危険因子である低栄養は治療を妨げ、治癒を遅らせている要因にもなっており、特に在宅では栄養指導が重要である。しかし、ほぼ寝たきりの状態や嚥下障害、認知症などによって食べることが困難であることから、必要最低限の栄養が摂取できていないのが現状である。そこで今回、在宅褥瘡患者の食事指導に取り組んでいる3名の先生方に、特別用途食品 個別評価型病者用食品として、消費者庁より認可を得た「ブイ・クレスCP10(シーピーテン)ミックスフルーツ」の導入のコツと症例を伺った。
Q1.CP10の導入対象者は?
A1.褥瘡になる前から。低栄養が疑われた段階で。
高齢で褥瘡のある在宅療養者は、ほぼ低栄養という状況です。日頃の観察の中でフレイルが疑われたり、プレフレイルの段階で栄養の見直しを行い、CP10の導入を検討することが大切だと思います(岡部美保先生)。
Q2.低栄養を見逃さないためには?
A2.本人の訴えや生活場面から、低栄養を疑って。
冷蔵庫の中や食卓の上など、生活から摂取エネルギー量不足を垣間見ることができます。利用者さんの中には宅配でお弁当を頼んでいる方もいますが、1食を1日かけていただく方やご夫婦で分け合っている方もいます。食事が用意されても、口腔内の状態によって食べるためのお口の準備ができていないから「食べられない」という方も。本人の訴えや生活場面からも、低栄養を疑うポイントが多々隠れています(岡部美保先生)。
Q3.CP10を推奨するときのポイントは?
A3.サンプルを試してもらうことから。
ご本人もご家族も褥瘡や低栄養に悩んでおられ、少しでも栄養になるものを取り入れたいと考えているので、まずサンプルを取り寄せて試していただきます。お渡しする際、飲んだ後の感想を聞かせてほしいと伝え、1週間くらいを目途にうかがってみると、「買ってほしい」と積極的に取り入れようとする声をいただくことが多いですね。栄養が補われることで食べるための体力がつき、食事をほとんど口にされなかった方が最終的に、ご飯を食べられるようになったこともあります(保坂明美先生)。
Q4.継続するには?
A4.変化の実感が継続につながる。
栄養を摂ることでの変化を実感すると継続につながり、その結果、栄養状態が改善。褥瘡の治癒さらには予防にもにつながっていくのでしょう。「ブイ・クレスCP10(シーピーテン)ミックスフルーツ」は、褥瘡を有する方の食事療法に使用できると認められ、目印となるマークの表示許可が得られたことで、医療者も、ご本人・ご家族も、選択しやすくなりますね(北村言先生)。
Q5.飲み込みが難しい方には?
A5.ゼリータイプなども検討を。
症例のように、飲み込みに問題があり、ドリンクタイプが飲めない方には、ゼリーの方が適している場合もあります。個々の嚥下状態に合わせて、最適なものを選択して、おすすめすることが大切だと思います(保坂明美先生)。
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症例 1
ポケットも小さくできる! CP10の底力
(提供:北村 言先生)
●患者プロフィール
80歳代 男性(要介護2) 基礎疾患:パーキンソン病 既往歴:なし 食事状況:食欲良好、経口摂取(普通食)。
●褥瘡発生の経緯
自宅で体動困難となり、20時間程度座位で過ごす。道路で転倒、外傷にて保護され、入院・褥瘡発見。入院中、下痢による褥瘡部汚染で創が悪化。整腸剤内服、褥瘡のデブリードマンを適宜実施。
●訪問看護導入後
入院約1か月後退院、有料老人ホーム入所。褥瘡処置のため訪問看護導入。褥瘡危険因子は該当しないことから褥瘡悪化要因は取り除かれている。ポケット及び創部のぬめりより、バイオフィルム存在の疑い。日中長時間椅子に座位(体圧55㎎Hg)で過ごす。立位可。WOCナースの助言により、創洗浄はポケットを含めて実施(スポンジブラシ、シリンジ、カテーテル使用)。長時間座位をとる際は30分毎の立位を指導。
●CP10使用前後の状況
体圧分散ケア、創洗浄により褥瘡治療を阻害する要因を除去したケアを実施。ポケットサイズの縮小と肉芽組織形成促進のためCP10を導入。6週間後、肉芽組織形成、創の収縮へ。
症例 2
多発褥瘡の不良肉芽はCP10で盛り上げる!
(提供:岡部 美保先生)
●患者プロフィール
70歳代 男性(要介護5) 基礎疾患:外傷性脊髄損傷 既往症:心不全・狭心症・直腸膀胱障害 食事状況:経口摂取困難「食事をすると腹部の張りで苦しくなる」。
●褥瘡発生の経緯
心臓バイパス術後、感染を疑う褥瘡発生。入院中高カロリーでの治療を実施するも本人の強い希望により退院(入院期間4カ月)、訪問看護を導入。キーパーソンは妻。
●訪問看護導入後
食欲不振による低栄養、感染高リスク状態、活動耐性低下・病的骨突出による慢性的な局所圧迫あり。食事は2~3口程度。外用薬の変更、ドレッシング材の見直し、ポケット内部の洗浄継続により、重症化した褥瘡は悪化せず肉芽組織形成に至る。
●CP10使用前後の状況
体圧分散ケア、創洗浄により褥瘡治療を阻害する要因を除去したケアを実施。ポケットサイズの縮小と肉芽組織形成促進のためCP10を導入。CP10飲用を契機に経口摂取開始。6週間後、肉芽組織形成、創の収縮へ。
症例 3
深部損傷が疑われる褥瘡の重症化をCP10で防ぐ!
(提供:保坂 明美先生)
●患者プロフィール
80歳代 女性 基礎疾患:認知症 既往歴:胃がん(腹腔鏡下幽門側胃切除術) 食事状況:粥のハーフ食を少量摂取。認知症のため食事摂取を促すも伝わらないこと多々あり。
●褥瘡発生の経緯
グループホーム入所。踵の褥瘡は訪問看護の介入により治癒。胃がん術後より座位保持での入院生活。低栄養状態3か月継続の可能性。退院時、尾骨部褥瘡発見され、訪問看護再開。
●訪問看護導入後
全介助にて体位変換、車いす座位では右に体が傾く。病的骨突出、関節拘縮あり。白くぷよぷよの褥瘡は超音波エコーで深部組織損傷の疑い。長時間の圧力、ズレが褥瘡発生要因と考え、ポジショニングを見直し。オムツ使用、軟便が1日数回。神経因性膀胱の可能性があり、間欠的導尿実施。
●CP10使用前後の状況
介助で経口摂取(300〜400kcal/日)。1日に経腸栄養剤1缶、ゼリーや羊羹1個、水分500mL以下。食事介助が長時間となり、次第に羊羹1個程度に食事量が減少。飲み込みやすいゼリータイプのCP10を摂取。6日目に創縮小、3週間後の創サイズは1×0.7㎝、治癒に向かう。CP10摂取以降、自らスプーンを持ち食べる意欲、動作が見られる。
症例報告をご希望の方は、「ニュートリション・ジャーナルVol.8希望」と明記の上、こちらから資料をご請求ください。
東邦大学医療センター大森病院栄養治療センター
"鷲澤尚宏先生に聞く"
鷲澤尚宏(わしざわ・なおひろ)
医学博士。東邦大学医学部臨床支援室教授。同医療センター大森病院栄養治療センター部長。消化器外科、栄養治療という専門分野を通して、日本における栄養サポートチーム(NST)の普及に初期より尽力。地域の医療・介護スタッフからも頼られる存在。
根拠が示された 「コラーゲンペプチド」の作用
肌、特に真皮をはじめ、身体全体のあらゆる部分のコラーゲン分子は、アミノ酸がつながってできた鎖の構造をしていて、ハリと弾力を保つ大切な働きをしています。食材としてコラーゲンを摂取してもそれが身体のコラーゲンになるわけではないので、「コラーゲン配合」という謳い文句の健康食品には違和感を持ったものです。 しかし、コラーゲンではなく、「コラーゲンペプチド」が肌を作る線維芽細胞を直接刺激し、活性化させる働きがあるとして、多施設RCTによりエビデンスが示されました(図2)。それ以来、スッキリと納得できるようになりました。基本的な栄養管理は、褥瘡の有無に関わりなく実施されるべきですが、個別の問題点に合わせたテーラーメードの支援も心掛けたいですね。
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発行: メディバンクス株式会社 ニュートリション・ジャーナル編集部
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