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嚥下障がいがあっても旅行がしたい!
嚥下食対応旅行で思いを叶える。


1泊2日、嚥下食対応の旅を金沢で。
大切な人と同じ空間で同じ食事を楽しんでほしい。


2023年11月15日、16日、石川県金沢市のホテル「香林居」において、嚥下障がいをお持ちの方やその家族、友人に、「嚥下食対応の宿泊プラン」を体験いただくモニタリング企画が試行されました。嚥下食対応の宿泊・旅行プランを開発する「やわらかい旅行社」プロジェクトの第一弾です。
仕掛けたのは、岐阜県岐阜市にある近石病院。プロジェクトリーダーの歯科医師 伊佐津 貴之さんは、「摂食・嚥下障がいの方々にとって、ご家族やご友人と外食をするハードルは非常に高いもので、食卓を囲み家族団欒の時間を過ごすという一見当たり前に思える事を望んでも、それを叶えることは難しい現状があります。 また、家族に迷惑をかけてしまうから...、何かあったら困るから...。こうした理由でお家に引きこもり気味になってしまうこともあり、社会的孤立として問題になっています。 そういった社会課題の解決や、食を通じて家族やご友人と楽しい時間を過ごすという人としての根源的な喜びの実現に貢献したいと考えています」と語ります。


※「やわらかい旅行社」:摂食・嚥下障がいの研究に積極的に取り組む医療法人社団 登豊会 近石病院(岐阜県 岐阜市)およびホテルプロデュースカンパニー 株式会社水星(京都府京都市 代表取締役CEO 龍崎翔子)が共同で嚥下食対応の宿泊・旅行プランを開発するプロジェクト。


kanazawa_1.png石川県金沢市のホテル香林居(左)。ホテル内の台湾料理店 「karch(カーチ)」(右)



kanazawa_2.jpg中央に伊佐津さん。嚥下障がいをお持ちの方とそのご友人と。


個々人にあわせた嚥下食を楽しんでもらうため、「医療」と「料理」それぞれのプロフェッショナルがタッグを組んで臨む。


今回は、嚥下障がいをもつ人とその家族や友人3組8名が参加。1泊2日の宿泊プランに夕食と朝食がついており、ホテル内の台湾料理店 「karch(カーチ)」が、嚥下障がいの方も家族や友人と同じメニューを楽しめるよう、嚥下障がいがある人には嚥下食対応メニュー、同行者には通常メニューを提供します。


本プロジェクトの医療監修者であり、近石病院の理事で歯科医師の近石 壮登さんは「えん下障害」についてこのように話します。「えん下障害とは、噛んだり飲み込んだりする力が低下している状態のこと。脳血管疾患の後遺症やパーキンソン病など、神経や筋肉の異常によって起こる障害ですが、年をとるにつれて口の機能やのどの筋肉が低下することでも起こりうる、だれにとっても身近なものです。患者数は100万人近くいるといわれていて、病名がついていないがむせや誤嚥の症状がある方も含めるとそれ以上の数が見込まれます。また、高齢者だけの問題ではなく、医療的ケア児など高齢者以外の当事者も少なくないのが現状です」


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医療監修者、近石病院理事の近石さん。総合病院に歯科・口腔外科を設立し、嚥下食を楽しめるカフェ「カムカムスワロー」も併設。全国的にも珍しい、「食」をテーマにした先進的な活動を行う。



この「嚥下障がい」があると、嚥下食が必要になることがあります。「嚥下食」とは、飲み込みにくい形態の食事を飲み込みやすく調整した食事のことで、ペースト状にするほか、とろみをつけたりゼリー状にしたりした食事のこと。嚥下食を提供する際は、個々人の状態にあった物性(やわらかく、なめらかで、べたつかないテクスチャー)に調整する必要があり、通常の食事よりも手間がかかり、技術を必要とします。さらに、食事を楽しんでもらうためには見た目が美しいことも重要なポイントです。


そこで、「医療」と「料理」それぞれの領域のプロフェッショナルがタッグを組み嚥下食の提供に臨みました。医療者として近石病院 歯科医師の近石さん、伊佐津さん、東京医科歯科大学より歯科医師の真山 達也さんらが参加。お客様を迎える前には、誤嚥・窒息に対する危機管理のため、ホテルスタッフに対処法の研修を実施しました。料理人として、自身のお店で日々嚥下食を提供している「日本料理 魚繁大王殿」(滋賀県)の岩崎 勝さんによる技術指導のもと、台湾料理店 「karch(カーチ)」のシェフ竹園 司さんが嚥下食作りに挑戦します。


医療機関で使用されるとろみ調整用食品「ソフティアS」のほか、ニュートリー社製のゼリー化材やゼリー粥の素が使われ、魯肉飯(ルーローハン)やピータン豆腐に大根餅などの夕食、薬膳粥や点心などの朝食、と伝統の台湾料理が提供されることになりました。


kanazawa_4.png誤嚥・窒息対応の研修を行う様子。


kanazawa_5.jpg患者さんに合った物性の食事に調整するため、厨房で試行錯誤する岩崎さん(左)と竹園さん(右)。


kanazawa_6.png朝食の薬膳粥や点心。普通食(左)嚥下食(右)とで使用する食材は同じ。



諦めていた"旅行"や"外食"の喜びを痛感。
今後の広がりに期待。


旅行に参加した白木さん(75歳)は、「リクエストしていた茶碗蒸しをメニューに取り入れ、出していただいた。そこにのっていたうなぎは、ゼリーなのに見た目はうなぎそのもの。味も本当の蒲焼きみたいで、とても美味しくて、びっくりしました。食べやすい!」と料理の感想を述べました。
「せき込みやムセが起きるのが心配で、なかなか外出できなくて。今回は昔から親しくしていた友人と一緒に来られて嬉しいです」と、旅行に参加できたことを喜ぶとともに、「自分の住む地域にもこういった宿泊施設や飲食店ができてほしい」と話してくれました。
同行した友人は、「白木さんとは昔から仲良くしていて、よく一緒にお酒を飲み何度か旅行にも行きましたが、嚥下障がいの症状が出てからはだんだん出かける頻度が減っていました。ムセが気になって外食できず、さらに出かける気力をなくしていて...、悪循環な気がしてとても心配していました。今回は久しぶりに一緒に遠出して、乾杯して、食事を楽しむことができて、本当に嬉しくて涙が出ました。」と喜びを語りました。
「いつも起きる発作も昨晩は起きず、朝起きたときのせき込みも今朝はなかった。出かけることで湧くエネルギーや気分的なものも影響しているのかなと思う」と白木さんの様子を話してくれました。「同じように苦しんでいる人が全国にもいると思うので、今回のようなホテルや飲食店がたくさんできるといいと痛感しました」と今後への希望を語りました。


kanazawa_7.png久しぶりの友人との旅行で食事を楽しむ白木さん(左)。



嚥下障がいがある人でも当たり前に外食や旅行ができる社会を目指したい。


プロジェクトリーダーの伊佐津さんはこの2日間を終えて、「大切な人と過ごす時間の大切さを、参加者の皆さんの笑顔や涙を見て心から実感しました。本当にやってよかったです。」と話しました。


また、イベント企画について「たくさんの関係者に、嚥下食や嚥下障がいがどういうものか、その課題やプロジェクトの意義などをきちんと伝えるのに最初は苦労しました。ですが、一度同じ方向をむいてしまえば、想定よりスムーズに進むなというシーンもありました。


料理人の方々はやはり「料理」のプロなので、実際嚥下食を作る工程は圧倒的にスムーズでした。医療的な専門用語を使わなくても成り立つというのは意外でしたね。嚥下食に対して少しハードルを感じる料理人の方もいらっしゃると思いますが、料理人だからこそ実現できることがたくさんあるだろうなと可能性を感じました。」と述べました。


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香林居を運営する株式会社水星の代表取締役CEO龍崎 翔子さんは、「ホテルや旅行というものは全ての人に開かれているように見えて、実はそうではなく、結局は健康な人のためのものになってしまっていると感じていました。


自分がもし当事者や家族だったら、それってすごく悲しいことだと思うので、ホテルという空間が年齢や障がいの有無にかかわらず、幅広い方に開けた存在になってほしい、その可能性を追求したいと思っていました」と今回のプロジェクトに対する思いを述べました。


「嚥下障がいなどなんらかのハンディキャップをお持ちの方にとって、お店やホテルなど受け入れ側は何ら問題なかったとしても、"迷惑をかけてしまうんじゃないか..."という不安があると思うんです。それはすごくストレスが大きいしハードルが高くなってしまう。だからリクエストがあったら対応するだけではなくて、こちらから歓迎するようなスタンスを示していくことが大事だと思っていて、これが今回だけの取り組みになるのではなくやわらかい旅行社としてもっといろいろなホテルさんや、レストランさんと提携したプロジェクトに成長させていきたいです」と、今後の展望についても語りました。


kanazawa_9.png株式会社水星の代表取締役CEO龍崎 翔子さん。



伊佐津さんによると、プロジェクト第2弾の計画も進んでいるとのこと。「"いつまでも大切な人と食事をすることができる"そんな世の中を作りたいと思っています。それを実現するには、我々医療者だけ頑張ってもだめで、例えば料理人の方や、今回であれば宿泊事業者、他にも企業など、多方面の方々がまずは同じ思いを共有して同じ方向にむかって力を合わせることが重要だと思っています。単発のイベントに終わらせず、今後も持続的なサービスを目指していきます」と語りました。


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※内容は2023年11月取材当時のものです。